京都市立西京高校付属中学「特別授業」

10月後半から11月後半にかけて、京都市立西京高校付属中学で「特別授業」が行なわれた。
10月23日、25日、27日は、昨年の「特別授業」で「経済のしくみ」を学んでいる3年生が対象。
「グローバリゼーションと経済」を大テーマにして、A組は「金融危機」、B組は「中国経済」、
C組は「地球温暖化問題」について勉強した。
11月11日、19日、26日、27日は、2年生を対象に、全員が「イントロダクション」を学んだあと、
B組が「仕事」、C組が「金融」、A組が「環境」についてそれぞれ勉強した。

テーマ講師
「金融危機について」地主敏樹(神戸大学経済学部教授)
「地球温暖化を防ぐには?」内藤登世一(京都学園大学経済学部教授)
「世界の貿易と中国経済」篠原総一(同志社大学経済学部教授)
「私たちのくらしと経済」篠原総一(同志社大学経済学部教授)
「仕事の経済学」大竹文雄(大阪大学社会経済研究所教授)
「金融のしくみ」野間敏克(同志社大学政策学部教授)
「私たちのくらしと環境」植田和弘(京都大学経済学部教授)

コーディネーター 堀岡治男(経済知力フォーラム専務理事)

金融危機について地主敏樹・神戸大学経済学部教授

10月23日(木)の6限目(14:20-15:10)と7限目(15:20-16:10)はA組の「金融危機について」。
講師は、神戸大学経済学部教授の地主敏樹先生。新聞やテレビでは連日、世界規模での株価の乱高下や金融危機が報じられているので、まさに絶好のタイミングだった。 地主先生はまず、「バブル」とは株式や土地の価格が異常に高騰する現象のことで、歴史上何度も繰り返されていると説明。
そして、それは「天才が現れて『新しい』金融技術を生み、借金が膨張する」現象だというJ.K.ガルブレイスの説を紹介。さらに、現在の「金融危機」は、サブプライムローン問題をきっかけに起きたアメリカの地価バブル崩壊だとして、サブプライムローンについて解説し、バブルが崩壊すると経済全体におカネが回らなくなり不況になることを、金融の仕組みや銀行における貸しと借りの意味(=バランスシート)から解き明かす。20081022_jinusi_120081022_jinusi_2

休み時間をはさんでの後半では、証券化の仕組みと保険機能について解説し、通常ではありえない「ローリスク・ハイリターン」の住宅ローン証券化のメカニズムについてわかりやすく説明。
そして、なぜ大手金融機関が破綻に追い込まれたのか、世界経済や日本経済への波及について言及したあと、「深刻な不況に落ち込むかもしれないが、大恐慌にはならないだろう」と予想した。
現実に起きている経済問題について、理論とデータを使ってわかりやすく解説した授業についての生徒の反応は?「とても充実した2時間だった」「頭をフル回転して頑張って聞いた」。
また、ある生徒の感想は、「サブプライムローンがどういうものであるかということがよくわかりました。今後、世界経済がどのような対策をとり、世界経済が再生するかに注目したいです。」

地球温暖化を防ぐには?内藤登世一・京都学園大学経済学部教授

10月24日(金)の5限目(13:20-14:10)と6限目(14:20-15:10)はC組の「地球温暖化を防ぐ
には?」。講師は、京都学園大学経済学部教授の内藤登世一先生。
前半の授業では、地球温暖化の証拠と、日本への影響について考えた。
内藤先生はまず、「地球温暖化は本当に起こっているのか?」と質問。生徒の答えを受けて、炭素(C)排出量が過去50年間で4倍に増加したこと、過去100年間で平均気温が0.56度上昇して、10~20センチの海面上昇が起きていることなどを説明。また、地球温暖化によって漁業や農業に大きな被害が出るだけではなく、海面上昇によって沖ノ鳥島が水没すれば日本の排他的経済水域が約40万平方キロ消失してしまうことや、
さまざまな疾病の流行が起きるだろうと警告した。
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後半の授業は、環境問題の経済学。まず、医学を例にとって「環境政策」について説明。
つまり、医学では人体のメカニズムを分析し、病気の原因を突き止めて、処方箋を出すように、経済学では経済社会のメカニズムを分析し、経済(環境)問題の原因を特定して、適切な処方箋(=政策)を提案する。経済学の分析によれば、地球環境問題の原因は市場がうまく働かないことにあり、その理由は、環境という資源がタダで提供されていることにある、と。無料であれば、生産費用が安くなるので過剰に製品が生産され、その結果として過剰なCO2が排出されることになる。
ではどうすればいいか。内藤先生の質問に、3人の生徒が見事な解決策を提起した。「有料化(環境税や排出権取引)」、「自動車よりも自転車を使ったほうがいいなとみんなが思うような仕組みをつくること」
そして、「みんなが生活を見直すこと」。 身の回りの環境問題と経済学の関係がよくわかったと、生徒たちも納得顔。
ある生徒の感想は、「経済学の視点から人々に『~しようかな』と感じる『動機』を考えることが大切だと思いました。」

世界の貿易と中国経済篠原総一・同志社大学経済学部教授

10月27日(月)の5限目(13:20-14:10)と6限目(14:20-15:10)はB組の「世界の貿易と中国経済」。
講師は、同志社大学経済学部教授の篠原総一先生。
篠原先生はまず、「日本はどのような財を輸入し、輸出しているか」と質問。日本は、石油、鉄鉱石、食糧、衣類などを輸入し、自動車、家電、半導体、機会などを輸出していて、日本の経済(私たちの暮らし)は輸入なしでは成り立たないし、外国の経済(外国の人々の暮らし)も日本からの輸出なしでは成り立たないことを、財務省貿易統計データを使って説明する。
ではなぜ貿易をするのかと問いかけ、それぞれの国は「外国に比べて相対的に得意なモノを輸出し、相対的に不利なモノを輸入する」ことで、それぞれの国がメリットをうけるという「比較優位の原理」を解説。また、同じようなモノを輸出すると同時に輸入している結果として消費の多様性を享受することができるとした。
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後半は、日本と中国との貿易が増えた理由について。日本と近いことと、労働コストが安いことがその大きな理由で、「日本企業が進出して、中国で生産する。生産に必要な機械や原材料などは日本から輸出し、中国で生産した製品を日本や欧米に輸出している」と説明。さらに、縦軸に付加価値をとり横軸に生産工程をとって描かれる「スマイルカーブ仮説」の解説。「生産開発からパーツ生産、加工組立、ソフトウエア開発までの付加価値の大きさを曲線で描くと笑った口元に見える」という説明に、生徒たちは興味津々。数週間後に迫った「上海研修旅行」を前に、ある生徒の感想は――「スマイルカーブ仮説をというのを知って、中国の経済は成長しているのに(一人当たり国民所得)が上がらない理由がわかりました」。

私たちのくらしと経済篠原総一・同志社大学経済学部教授

11月11日(火)の4限目(10:50-11:40)と5限目(11:50-12:40)は、2年生全員を対象にした「私たちのくらしと経済」。
講師は、同志社大学経済学部教授の篠原総一先生。
授業で篠原先生は、「公民」の授業をまだ受けていない2年生に向けたイントロダクションとして、「経済」は毎日の生活と密接につながっているものこと、経済の基本は「労働」「所得」「消費」であること、豊かな社会をつくるためには「分業」と「交換」が必要であること、そして日本は豊かな社会であることを説明した。
まず、シャーペンやTシャツを例にとって経済が身近なものであることを説明する。そして、所得で見た豊かさを見るために、世界銀行の統計データを使い、日本はドル換算の名目GDP(国内総生産)で見ると世界第2位であることを示す。
さらに、日本の県民所得データでみると、東京都のGDPは世界の国々の11番目、大阪は21番目、京都は32番目に当たる、だから「日本はかなり豊かだ」と指摘した。
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次に、労働・所得・消費と分業・交換から成り立つ生産の仕組みと経済の仕組みについて図で解説し、生産と経済の仕組みがうまくいけば「豊かな社会」を実現できると説明した。
そして最後に、最低賃金法を例にとって、経済や社会の仕組みをうまく働かせるための答えは一つではないことを付け加えた。
生徒の感想は、「“経済”って知らないうちに関わっているし、身近でおもしろいものだなと、経済に興味がわいてきた。」「将来、自分の仕事に責任をもち、自分も経済を動かしていく一人になっていきたい。」

仕事の経済学大竹文雄・大阪大学社会経済研究所教授

11月19日(水)の5限目(13:20-14:10)と6限目(14:20-15:10)はB組の「仕事の経済学」。講師は、大阪大学社会経済研究所教授の大竹文雄先生。
まず、小学生・中学生・高校生、そして大人が「なりたい職業」についての調査から、小・中学生では男子「野球選手・サッカー選手」、女子「保育士・幼稚園の先生」であり、高校生では男女とも「学校の先生」、大人は「医者」や「看護師」であることを紹介。次いで、それぞれの職業の年代別年収のデータを見ながら、若い時の所得はそれほど変わらないが、将来的には職業によって所得が大きく異なると解説。
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後半は、「大学に行くことは得か」というテーマ。大学に行く「費用」としては、入学金や授業料だけではなく、もし高卒で働いていたら稼ぐことができたかもしれない4年間の所得(放棄した所得)も入れて考えるべきだと説明。
そして、大卒と高卒の生涯賃金の格差が約7500万円なので、大学教育の費用(放棄所得も含む)がそれ以下であれば「大学に行くことが得」だということになるかもしれない。そう説明したうえで、大竹先生は、「本当にそれでいいの?」と質問。
そして、現在の賃金(50万円)と将来の賃金(50万円)は必ずしも同じ価値ではないとして「割引現在価値」という考え方を説明し、将来の所得は割り引いて考える必要があるとした。 「割引率」の話はさすがに難しかったらしく、授業終了後には、教壇の周りに集まった生徒に囲まれて、大竹先生は数値を使ってわかりやすく説明していた。
ある生徒の感想は、「僕を経済の世界に連れて行ってくださった大竹先生、ありがとうございました。」

金融の仕組み野間敏克・同志社大学政策学部教授

11月26日(水)の5限目(13:20-14:10)と6限目(14:20-15:10)はC組の「金融のしくみ」。
講師は、同志社大学政策学部教授の野間敏克先生。
1時間目の授業は金融論。金融とは資金の融通であること、金融に際しては「信用」が大事であること、
「利子」は時間やリスクの値段であることで会社の儲けの反映であることを解説。
そして、会社のおカネの借り方には借入と出資があること、日本では銀行など間接金融機関の存在が大きいことを紹介した。
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2時間目は、貨幣論と金融政策論。まず、財布から1000円札を取り出して、「なぜこれで買い物ができるのだろうか?」と質問。
そして、おカネとは取引に使われて誰でも受け取ってくれるものであり、おカネがおカネであるためには
「信用」が大事であると説明。次におカネの歴史を簡単に紹介し、おカネの流通や預金の話から、おカネの量が増えると物価や賃金、株価などに影響が出ること、したがって政府や日本銀行がおカネの量を適正にしようと努力していると解説した。
毎日当たり前のように使っているおカネの話だけに生徒の関心も高かった。
生徒の感想は、「私が1000円札=1000円だと当たり前に信用していると日本の金融はうまくいって、信用しなくなるとうまくいかなくなる……本当に不思議な関係だなと思いました。」
「言われてみると、“ああ、たしかにそうだな”と納得のいく事ばかりだったので、聞けてよかったと思います。」

くらしと環境植田和弘・京都大学経済学部教授

11月27日(木)の4限目(10:50-11:40)と5限目(11:50-12:40)は「私たちのくらしと環境」。
講師は、京都大学経済学部教授の植田和弘先生。
まず、私たちの身の回りにあるモノはすべて、「生産されて、消費され、廃棄される」が、私たちはモノを選ぶ時には価格や品質は見るけれども、それが廃棄される場面まではなかなか考えが及ばないことを、ボールペンを例にして説明。
そして、環境に関する情報や知識の重要性や、環境の価値を価格に反省さえることも重要だと解説。
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後半は、環境問題。地球温暖化で海面上昇が起こり、ツバルのように国土がなくなってしまう島嶼国があること、また現在、日本(人口1億2000万人)には約7900万台の車があるが、仮に中国が日本と同じ割合で車を保有するとすれば8億台となり、これは現在の世界の車の総台数(8億台)と等しいと紹介。だからこそ先進諸国は温室効果ガスを大幅削減し、途上国はこれ以上増やさないようにすることが必要であると解説。
生徒の感想は、「(どちらのボールペンを選ぶかという先生の質問に対して)環境に良いほうを選んだのは、やはり総合学習で小学校の時から環境について自分たちで調べたり発表したり、よく学んできたからなのかなと思いました。」「きょうから、素材の良いモノを選び、地球の力になれるようになりたいと思った」「『暮らしを豊かにしながら環境を守る』というのは本当に難しいことだと知った。」